序章

(1)下町の知恵を次代に活かす知的資本に

いままであまり深く探すことをしなかったはずの、まだ自分でも気付いていない、素敵なアイデアや技能をライブラリー化してさらなる広がりと深みを求める試みを提案してきました。そのためには、手はじめに、財産についての認識を物から無形資産へステップアップしていくためにどのようなことをしていかなければならないのかについて考えていきたいと思います。まず最初に自分自身の持っている無形資産を“見える化”することからはじめるのがなによりも大切です。物は見えますが、ノウハウ・スキルなどの無形資産は見えません。ですから、そのままでは人間が認識することができません。それが今必要なのか、何かに利用できるかもしれないのか、常々欲しいと思っていたものなのか、今後ひょっとしたら役立つかもしれないものなのか評価することができません。ですから、なにをおいても、とりあえず何らかの表現または表示をすることが肝要です。といっても、アイデアやノウハウなどのように文字や図形で表現できる場合はさておいて、スキルとしての特技、カン、コツ等については少しばかり工夫がいります。その人にのみ専属する固有の人的資産ですからそれを持っている人、すなわち、本人にしか認識することができません。それを本人以外が認識し、知識・体験として獲得するには、本人から五感を通じて伝達を受け、本人と共同して体験し、体得していかなければなりません。人的資産としての無形資産を蓄積・結合して、無体財産たる知的無形資産として活用可能にしていくことが必要になります。

(2)インタンジブル(無体財産、無形資産)アセットマネジメントの活用

前世紀において、特許等の工業所有権以外にも人的資源により生じた知的無形資産を経営管理に活かすためのインタンジブル・アセット・マネジメントが北欧のスカンディナ社によって推し進められていたことがありました。しかしながら、21世紀末で政策的な理由か国策によるものか、惜しくも同社における同マネジメントは終焉を迎えてしまいました。しかし、国際的特許戦争の進展、特にアメリカのプロパテント戦略に対抗するためには、一企業単独ではなく国際的にも競争企業、敵対関係にある企業を含めて、複数企業が特定分野または課題について協力して問題解決に当たる“オープンソリューション”が多く行われるようになりました。この場合でも企業内ではオープンにできない暗黙知を含む無形知的資産を顕在化していくナレッジマネジメントを推進する努力は続けられていました。しかしながら、ナレッジマネジメントは企業内の特定業務課題に絞って行わないと担当者各人の暗黙知を比較評価できないといわれていました。しかし、ある特定課題についての無形知的知的資産たるインタンジブルズについては共通課題を対象とするので、部門を超えて、企業を超えて、国境を超えてナレッジマネジメントの対象とすることができる場合があります。したがって、スカンディナ社の思想を引き継いでインタンジブルズを蓄積・流通させようとする試みは依然として有効だと考えています。

(3)下町のオープンサイエンス

世界では、特に西欧諸国は大航海時代から地域を越え、国境を超えて、大陸を超え新天地を求め続けてきました。したがって、その傾向として特定の課題での解決を求めるオープンソリューションの動きは、すでにある広範囲の知的資産情報を広範囲の全体で共有して伝達しあうオープンサイエンスの動きに発展することによって情報をオープンに共有しつつ南極大陸やアメリカ大陸に国旗を建てる方法で権利主張することが得意です。それにひきかえ我が日本は極東の島国で永らく西欧諸国と没交渉であったうえに鎖国政策や御法度制度のもと、先祖代々の秘伝による情報伝達が得意な国民性があります。アメリカではプロパテント政策を国際的にも拡大解釈して貿易戦略を超えた国際政治戦略に活用しているありさまです。したがって、欧米各国では民間から政府までがコンテンツやノウハウの活用展開のリーダーたらんとして躍起です。日本でも国を挙げてオープンサイエンスを推進させようとする動きはあるももの、前述の国民性から動きははかばかしくありません。むしろ、日本には世界的レベル、国家的レベルの知的無形資産を政府が国策として育てようという気風がなく、下町の職人が御法度に触れないよう家風、奥義、秘伝といった一見なんのへんてつもないもののようにカモフラージュしながら伝統的に継承するのがよしとされてきました。これは、日本の風土では目立たないように細くながく、時間軸に沿って縦に連綿として伝達される縦糸のインタンジブルズが育っていることを示していることの証左ではないでしょうか。そうだとすれば、この、それだけでは評価しにくい細い縦糸を時代に即した横糸を使って織りなす錦とすることができるのではないかと考えました。この錦織こそ今まで想像することもできなかった錦絵の数々生み出す源泉となるものと思われます。ノウハウライブラリーは下町のオープンサイエンスを実現するサロンとして知的資本たる次代への遺産の蓄積・流通を実現するものと思います。